映画館の現在と未来

今週、私のもとに2つの衝撃的なニュースが耳に入りました。

ワーナーマイカルシネマズ春日部が3月5日にオープンするそうです。なんて事はないニュースなのですが、これまでと全く異なるのは国内初、映写室のない完全デジタル化された劇場がついに日本でオープンするという点にあります。

そしてもう1つ。

サイド・バイ・サイド -フィルムからデジタルシネマへ-』というキアヌ・リーブス製作の新作ドキュメンタリー映画が主要都市にて、劇場公開中です。なのですが、劇場公開中の作品にも関わらず、Appleのitune storeでビデオコンテンツとして作品を2500円で購入・鑑賞する事も出来ます。

この2つのニュースの何が衝撃的なのか?

まず、デジタルシネマの時代に突入した昨今ですが、ついに劇場も例外ではなくなったという点です。

これまでは編集室で完成した作品をフィルムに起こし、全国の劇場へ『映画』を届け、それを映写していました。ですが、ワーナーマイカル春日部の場合になりますと、デジタルデータのまま映画館へ『映画』を届け、そして、そのままお客さんが鑑賞する事になります。となれば、より原盤(マスター)に近い綺麗な状態で見る事が出来るようになるわけです。この狙いは、ひとえに映画館スタッフの人件費削減でしょう。

そして『サイド・バイ・サイド』。映画館で新作公開している映画が同時期に購入出来てしまう点。これまでは最新の映画を見るためには映画館でしか見られませんでしたが、この作品に関しては、映画館の大きいスクリーンで見る?それとも手軽にオンデマンドで見る?という選択肢が生まれた事です。

旧作ならまだしも、最近作ですから、こうなってくると、劇場映画館は大きなスクリーン見られる!という事でしかバリュー(価値)が無くなってしまい、観客はわざわざ車・電車で足を運んで映画館で見る!という必要が無くなってきます。最新作を見たい人の中にも、手軽に自宅や出先で見られるなら、オンデマンドで見たい!という人達も増えてきそうです。

さて、映画会社の思惑として、今後どのような意図があり、どのような流れに今後なってくるのでしょうか?

地方にもマニアックな作品が好きな映画通の人達は沢山おります。しかし、こういった人達は、ミニシアター系映画の最新作をいち早く見る事が出来ません。

このニーズを取り込むために『サイド・バイ・サイド』のようなミニシアター系映画をitune storeなどのオンデマンド環境にて、映画公開と同時に配信もしていく事になると思います。

そしてオンデマンド会社が考える、その先には、大作の新作映画もオンデマンドで配信という事を目標とするのは当然でしょう。言ってみれば、映画館で生まれるお金をappleなどの他ジャンル会社が狙いに行っているんでしょうね。

映画コンテンツが観客のもとへ届くまでの過程に様々な選択肢が生まれたわけですが、私はわりとドメスティックに映画興行に携わる人達を応援する気にはなれません。

と言いますのは、日本ではこれまで「映画作品は映画館に掛けなければ最終的にお金にはならない」という点を人質に取られ、映画興行する立場の人達に、映画収益の大きな部分を取られていたからです(こういった過程があったからVシネマという日本独自のジャンルも生まれたりしました)。

だからといって、沢山の人達が映画館ではない場所で映画を楽しむようになる。これもまた違うような気がします。映画は映画館で見てこそ、より楽しめる魅力が沢山あるからです。

映画館で映画を見る文化がより薄れていく時代の昨今、映画に携わるえら〜い人達は今一度、映画の収益構造と分配を見直し、歴史ある映画文化を維持してゆくために何をするべきなのか?そういった事を見つめ直す佳境に来ているように思います。