今、米国映画市場では面白い事が起きている

Amazonが月額料金での配送とストリーミング(逐次再生)サービスの提供を開始するそうです。米ネットDVDレンタル大手ネットフリックスとの競争が激化。という記事がちょっと前に出ていました。

これってけっこうスゴい事が起きているんです。という事で解説してみよう。
ネットフリックスという会社をご存じ無い方も多いと思うのですが、まぁアメリカのTSUTAYAみたいなレンタルDVDサービス会社の最大手とイメージしてみてください。

んで、10年くらい前にですね、宅配DVDレンタルサービスを始めた会社でもあります。郵便でレンタルDVDが宅配されて、郵便ポストで返すっていうサービスですね。

このネットフリックスという会社は、この手法で、それまであった地方のレンタルビデオ屋さんなんかを逐次して、米国最大手に成長した企業だったりします。しかし、レンタルされてしまっては、販売DVDが売れない!って事で米国映画会社は販売DVDの値段を一律で大きく値段を下げる反撃に出ました。

レンタルDVD vs セルDVDってな構図です。

そりゃレンタルのが多少は安いのですが、郵便でレンタルして、郵便ポストで返却というビジネスモデルは面倒臭がりの米国人には合わないようで、「どうせ値段が5$しか違わないなら買っちゃおう!」という市場ニーズが非常に大きく、米国映画会社としては薄利多売ですが、セルDVD市場が大きく加速しました(米orカナダAmazonのDVDが安い理由はこのため)。

しかしネットフリックスも黙って見過ごすわけではありません。

宅配レンタルDVDサービスを利用した事のある方は知っているでしょうが、このサービスって返却期限は基本的に無いんですね。月額会員制で新しいDVDを借りたければ、今借りてるDVDを返さなくてはいけない。米レンタルDVD市場ならではの合理的なシステムです。

しかし郵送の手間とコストが非常に掛かるという事で、このネットフリックスサービスの会員であれば、郵便でなくともオンデマンドで借りれますよ、見れますよというサービスも同時並行でスタートさせました。

当時、アメリカではこの『オンデマンドで視聴する』という解釈に、映画をセルしている企業、並びに映画会社からの猛反発があったそうです。なにせ、DVDの盤面を刷ってナンボの映画会社からしたら、オンデマンド、しかも月額会員制で見放題!となってしまっては、映画1本あたりの収益がかなり下がりますからね。ネットフリックスは「あくまで会員ユーザーに郵送かオンデマンドか選んで頂いている。ネット環境が無い会員にもサービスを提供するが、ブロードバンド環境にある会員には、郵送の時間コストを無くすためにオンデマンドサービスを利用して頂けるようにする」というのが言い分です。

ようはネットを通じて映画をレンタルしているんだよ。んでうちは月額会員制だよ。ちなみにうちのサービスは返却(というかオンデマンド視聴が終わった時点で返却という解釈)して頂ければ、何度でも見れますよ。というのが言い分なんですね。屁理屈みたいな言い分ですが、これで上手くやり過ごしちゃったわけです(笑)。

まぁ、その後どうなったかは2012年の今を見れば明らかですが、日本だと『fulu』サービスに代表されるように、月額会員制のオンデマンドサービスが非常に大きな成長となっている昨今だったりします。

そして、Amazonもストリーミングサービスを開始となるわけです。
AppeleのAppele TVだったり、ネットフリックスであったり、こういったサービスで最重要となるのはコンテンツの「量」と「質」だと思うのは私だけではないと思います。

せっかくサービスに登録したからには最新の映画がいっぱい見たいし、古い映画やマニアックな映画なんかもリストアップしてくれてると良いよなぁと思います。となれば、各サービス会社は喉から手が出るほどに、コンテンツのニーズが高まっています。しかしコンテンツ(映画)の中には、今ではほとんど利益を見込めないような映画から、今でもドル箱になるような映画まで様々です。

で、ここからは僕個人の未来予想になるのですが、ここまでの経緯を見ていると、ソロモン・ブラザーズモーゲージ債→リーマンショックの流れと似たものになってくるのでは?と非常に危機感を感じていたりします。

モーゲージ債とリーマンショックについては説明が難しいので、マイケル・ルイスの「ライアーズ・ポーカー」を読んでみるとよーく分かりますよ。面白いのでお勧めの本です。

結論から言うと、映画コンテンツ自体が証券の商品のように成り始めているという事です。ちなみに、日本で起こっている事で言えば、松竹のオンデマンドサービスが終了。Fuluと提携して、小津安二郎作品から最近の松竹映画まで、少しづつ小出しに映画を卸しています。

たぶんこのままの流れでいけば、非常に小さい市場ですが、日本の映画市場も米国のオンデマンドサービスに食われてしまい、結果、各映画会社の利益が少なくなる事になるでしょう(松竹が自社サービスのオンデマンドを辞め、海外のオンデマンドサービスに卸す事によって利益は少なくなります)。そうなると、今度は新作の映画が作られなくなってしまう。ひいては行き着く先には日本映画というものが無くなるかもしれません。

まぁ、実際、日本映画市場というのは各国と比較するとかなりガラパゴスな環境なので、これを説明するとまた難しいんですが、実際、アメリカの映画市場だけでなく、日本の市場も少しづつ食われて行ってるというのが今の現状です。そして、少なくとも米AmazonAppleNetflixによる映画オンデマンドの戦国時代に突入した今日この頃なのです。

競争が激化している中だけど、日本映画・・・、大丈夫なのかね〜?