マンガ記号論

マンガ記号論というものがあり、これは手塚治虫が提唱した表現方法の1つです。表現による記号論というのは、まず手塚治虫のヒストリーからヒモ解かなければなりませんのでいちおう説明。

その昔、当時の漫画界では神様であった手塚治虫に対し、アンチ手塚治虫として出てきたのが劇画漫画です。「ゴルゴ13」「あしたのジョー」など、手塚では描けない世界を、手塚では描けない漫画を、という事で出現した劇画漫画ブーム。しかし手塚治虫はこれに対し、劇画漫画の手法を自らの漫画に取り入れてしまいます。よりリアリティのあるコマ、表現を取り入れ「火の鳥」などの作品を次々に生み出し、対抗します。

そして70年代、ニューウェーブの名の下に1人の漫画家が世に出ます。大友克洋です。彼は圧倒的な画力と、映画的感性に裏打ちされた漫画表現でついに手塚治虫を圧倒します。手塚治虫の絵は見てわかる通り、キャラクターは可愛くデフォルメされており、大友のSF的にリアリティのある漫画には勝てませんでした。そして対抗策として提唱したのが、「マンガ記号論」です。

「マンガは記号である」。こうでも言わないと、大友克洋という若手漫画家に神様・手塚治虫は自分を納得させる事が出来なかったのでしょう。この頃、手塚治虫はマンガの画力にかける情熱を捨て、アイデア満載のストーリーで勝負に出ました。もう終わった過去のマンガ家であった手塚治虫は「ブラックジャック」という傑作を生み、再び第一線に復活します。

映画だろうが、マンガだろうが、表現するという立場になると「リアリティ」というものをみな追求します。ハリウッド映画のような迫力あるものを作りたい。それにはオリジナルの感性に裏打ちされた、圧倒的な世界観で作品を作る必要があります。しかし、それを現実に出来るのはほんの一握りの才能の人達です。そして現代、新しいストーリーやキャラクターというモノは出きってしまい、オリジナルの表現が生まれにくい現代において、手塚治虫自身も自らの才能の限界に気付き、行きついた表現方法「記号論」。これが21世紀の時代の手法だと思うのです。

1977年、映画界において1つの歴史的作品「STARWARS」という映画が生まれました。スター・ウォーズは映画マニア以外は知る事もないと思うのですが、古い伝記「アーサー王伝説」のストーリーのパクりです。まぁ、パクりっていうと語弊がありますが、誰でも知ってるような古い昔話を基本ストーリーとして、古いSF映画のキャラクターや当時では最新の合成技術を使い、あたかもオリジナルであるかのような顔をして世に出たのが「スター・ウォーズ」なのです。

記号論の利点として、記号的であるがゆえ、物語やキャラクターがシンプルかつ抽象的であります。抽象的であるという事は誰でも感情移入をしやすく、何度見ても飽きにくい。短所としては、基本的にベタな表現であるので、如何にベタな表現として気付かれないように作るか、組み合わせるか。という事であります。まぁ、難しいんですね。スター・ウォーズの場合は当時、誰も見た事の無いような合成映像で観客を圧倒し、ベタなストーリーである事を気付かれないように作られています。

21世紀においては「涼宮ハルヒの憂鬱」というアニメが大きなブームとなっています。この作品は、様々な作品で見かけるようなキャラクターによるスターシステム的アニメであります。

スターシステムとは手塚治虫が作った1つの表現です。例えば、「ドラえもん」のキャラクター達が「西遊記」「マッチ売りの少女」「3匹の子豚」の世界でマンガを展開するような事です。手塚はマンガ内のキャラクターを1人の人間、役者として捉え、色んな映画に出させるつもりで描いた結果、確立された表現の1つであります。

涼宮ハルヒの憂鬱」という作品は、ツンデレや無機質キャラ、萌えキャラやBLキャラなど、どこの作品でも人気が出るようなキャラクターを一同に集め、主要人物として物語が展開していきます。スターシステムを存分に使い、「名探偵コナン的な推理アニメ」「根性野球アニメ」「映画バック・トゥ・ザ・フューチャー的時間移動」、また70年代のSF作家ストーリーのような筒井康隆小松左京的なモノを垣間見せます。

これからアニメ、映画を見る10代20代の人達には新しいオリジナルアニメに感じがちですが、よくよく見ると色々な作品からアイデアを拝借しており、その組み合わせで作られているアニメなのです。過去も現代もヒットする作品はどこかしら記号的に作られているのですが、オリジナルがより出来にくい現代においては、より重要になってくると思われるのが「記号論」なのです。

涼宮ハルヒの憂鬱」や「けいおん!」などは、入り口は広く作られており、普通に楽しめるモノになっていますが、より深く見てみると、いくつも重層的に意図して作られた記号的アニメーションであり、私のような同じクリエイターとしてすごい!と思わず感じてしまいます。ジェンガのように記号を組み合わせて作られた作品というのは、何十年経っても色あせない、面白い作品として生き続けていく。「記号論」というのは才能なき者の知恵を使った素晴らしい表現方法だと私は思うのです。

※この記事は3〜4年前に書いた自分の記事の転載です。